西土佐農業公社 事務局長 武内 実さんインタビュー

——西土佐農業公社について教えてください
“地域に農業後継者を残していこう”という想いから、平成8年に設立し、四万十市の「四万十市総合営農指導拠点施設」の指定管理者として地域農業を支えています。平成25年に法人改革し、
「(公財)四万十市西土佐農業公社」として、主に3つの事業を行っています。
1.新規就農者育成研修事業(農業後継者の育成・米ナス農家を増やす)
2.新規作物等試作支援事業(普及可能な新作物や新技術の試験研究)
3.水稲育苗事業(園芸農家の労力負担を軽減)」です。
——地域を支える様々な取り組みをされているんですね!他の農業公社との違いはありますか?
大きな特徴は2つあります。
1つ目は、米ナス栽培だけでなく、トマト(溶液栽培、土耕栽培)、露地野菜など幅広い栽培技術を学べる点です。また、杭の打ち方、クワの使い方、紐の結び方1つから一緒にやっています。研修生にはいろんな引き出しを持たせてあげたいんです。
特定の品目だけで一生食べていける保障はありません。仮に何らかの原因で学んだ作物の栽培ができなくなっても、様々な経験により応用が利かせられることでリスタートもしやすいですからね。
2つ目は、低コストで高収量を目指せる「移動式簡易雨よけハウス」を導入していることです。
——移動式簡易雨よけハウスって何ですか?
このハウスは、他の地域では見られない独自のものです。愛媛県のキュウリ農家が活用していた資材がヒントとなり、10年前に米ナス農家と共同で試験研究を開始し、試作を重ねて、米ナス栽培用に応用させたものが現在のハウスとなります。
メリットとしては、
1. 低コストで導入ができる:10アール(1000㎡=約300坪)で約310万円ほど
2. 連作障害の回避:差し込みハウスなので移動が可能!
3. 収量の増加:露地栽培と比べ、収穫時期を2ヶ月程度延ばせるので売上もUP
4. 秀品率がよい:作物の品質が良くなり、有利販売が可能
5. 風の影響を受けづらい:施設高が低い(2m以下)ため、台風被害の心配も少ないです。
さらに、ハウス内は日陰で風通しが良く、夏は外にいるより涼しいですね。
——低コスト低リスクで新規就農できるのはうれしいですね。西土佐で農業がしたい!という方はどうすればいいですか?
現在、農業研修生と地域おこし協力隊を募集中です!
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農業研修生は、経験豊かな指導者のもとで現場での農業を2年間学ぶことができます。
研修中は
国・県の支援制度を活用し、年間180万円(※34歳以下は年間210万円など詳細要件別途あり)の資金の交付が受けられます。
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地域おこし協力隊
は3年間、給与183,354円(※昇給あり)を得ながら、研修生と同様に農業技術を習得します。さらに担い手確保のため、県内外へ魅力を
SNS等で発信する役割も担います。
農業に興味のある方、ぜひご応募ください!
——これまで、研修を経て就農した人数はどのくらいですか?
平成8年からの農業研修生は28名です。そのうち26名が地域に残り、17名が農業に従事しています。最近だと、東京から移住された方が農業研修生として学び、R6年度に西土佐で米ナス農家として就農しました。
米ナス部会に所属して仲間と切磋琢磨しながら頑張っています。
地域おこし協力隊では、Uターンの
篠田智洋さんが着任中です。もうすぐ3年の活動を終えて卒業し、8月には西土佐で就農予定です。
——たくさんの方が地域で活躍されているんですね!米ナス部会について教えてください
現在、18名のメンバーがいます。年齢層は20代から70代まで幅広く、40代以下が半数を占めていて、若いメンバーが中心です。とはいえ、60代や70代の篤農家(※)さんは腕もトップクラスで馬力もあり、その勢いに若いメンバーも押されています。定期的に勉強会も開催し、皆真面目で雰囲気も良いですね。
※篤農家…技術や知識が高く、農業に長年携わっている優れた農家のこと
——部会の存在は心強いですね!住まいや農地の相談にも乗ってくれるんですか?
住まいを斡旋する仕組みはないですが、私たちは地域との繋がりが強いため、日頃から空き家や農地の情報が入ってきます。これまで親元就農でない研修生4、5名に紹介してきました。
NPO法人四万十市への移住を支援する会とも連携して、西土佐での暮らしの相談に乗っていきたいです。
——農業を始める上で欠かせない要素を教えてください
「今、なぜこの作業をするのか、この行動でいいのか?」と自問自答し作物の生理生態や、それを取り巻く自然環境をよく考え、理解したうえで根拠をもって行動することが大切です。一つひとつの動作、原理にクエスチョンを持って向き合わないと応用が利かないし、間違った方向に進んでしまいます。農業は決まった正解を追い求めるものではなく、失敗する方向にいかない能力を持った人が、安定的に収量・売り上げを伸ばしていると思います。色々と試行するのはいいことだけど、絶対にこれはやってはいけないというのがあるので、研修生には危機回避能力やバランス感覚を養ってもらうような声掛けを心がけています。ベストでなくベターでいいんです。
——西土佐での生活環境はどうですか?
生活環境に不便はないですね。保育所、小中学校、診療所、介護施設が同じ一画にあって、保護者にとっても便利だと思います。買い物も、
道の駅よって西土佐や
スーパー彦市、
横山精肉店もあるし、隣接する愛媛県も生活圏として利用でき、20~30分ほどの距離に医療機関、大型スーパー、ドラッグストア、ホームセンターなどが揃っています。
——西土佐ではどっぷり自然を満喫できそうですね!
川遊びも、山遊びもできます。サーフィンやウィンタースポーツへ出掛ける人もいますね。立地的に、
四万十市中村、
四万十町窪川、愛媛県南予地域の3方向へ行きやすくて良い場所ですね。あとは、星空が本当にきれいです。星空の街に認定されていて、
天文台もあります。空がひらけていて、街灯も少ないため、流星群も観察できます。空を見上げ過ぎて首が痛くなるほどです(笑)
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西土佐での暮らし
——西土佐で農業を始めたいと考えている方へメッセージをお願いします
ぼくらは、背伸びはしません。生業とする農業は、モノを言わない自然や作物です。これからも身の丈にあった、西土佐地域に合ったモノづくりをしていきます。
ただ、生活するために
「稼げる農業」には執着していきたい。まずは安定した収入を得るためにベテラン農家の真似をし、そこから自分の思う農業を目指したらいいんです。篤農家さんもそうやってひたむきにやってきました。
地域の人は世話好きな人が多く、よく声も掛けてくれます。人の好さが根本にあるいい地域です。自分だけ儲けたらいいという考えの人はいないですね。
共に地域を大事にしてくれる人を求めています!
豊かな自然の中で、時間の流れを感じながら、一緒に西土佐で農業をしましょう。
見学、体験も随時受け付けています!
「新しい環境に飛び込むのは、勇気がいるし不安も多いと思います。失敗する可能性もある中で、リスクヘッジできる地域おこし協力隊は良い制度だと思っています。僕はこれから就農しますが、成功するイメージはなんとなくできています!
また、しっかりと基礎を学ぶ
農業担い手育成センターと、逆に教科書通りにはいかない実践での工夫をしている農家さんの立場と、両方を理解する農業公社でバランスよく学べたことも大きな収穫でした。他にも様々な野菜の栽培方法を学べたことも良かったです。
8月からは地元・西土佐で、米ナスと春蕾の栽培を始めます。地域の景観を守り、地元を元気にしたいという思いからUターンしてきたので、宿泊業にも挑戦し、半農半観のライフスタイルを目指していきます!」