移住者インタビュー
高知県本山町。豊かな山に囲まれた場所で、「自分の手で家を建てる」という壮大なプロジェクトに挑む一人の男性がいる。川端俊雄さん、52歳。自身が切りだした木、家の周りにある土と藁、安く譲ってもらった瓦。あるもので家を建てる、ずっとやってみたかった挑戦に共感してくれた仲間たちも加わり、単なる「家づくり」を超えた一つの物語がここに生まれようとしている。
川端 俊雄さん
始まりは素朴な思い、譲れない一線は家族の安全
「林業をやっているから、毎日木を切り出しているわけですよね。柱とか、家の材料になる。あ、これを使って自分で家を建てたら面白いやろうな、と」。林業の世界に飛び込むため、13年前に大阪から高知県本山町へ移住。山で木と向き合う日々の中で抱いた素朴な思いが、この壮大な挑戦の始まりだった。
家づくりをスタートするにあたり、まず頭に思い浮かんだのは年の離れた妻や子どもたちのこと。彼らに引き継いでいく家をつくる。そう考えると「ゆくゆく修繕ばかり必要な、自己満足の家になったらいかん。永く安心して暮らせるしっかりした家を作らないと」。素人には難しい「設計」と「基礎」は専門家に依頼することに決めた。
理念が引き寄せた出会い、5年間寄り添う「伴走者」
「セルフビルドで家を建てたい」。一見すると途方もない挑戦に思えるが、手を差し伸べてくれる人がいた。「土佐派の家ネットワークス」の設計士、松澤敏明さんだ。
「土佐派の家ネットワークス」とは、「高知の木材、土佐漆喰、土佐和紙等の伝統的な素材を使い、高知の風土に根差した家づくり」を理念とする設計士と素材生産者、工務店、職人の集団である。川端さんが「自ら本山町の木を切り出し、そこにある土を使って家族の家をセルフビルドしたい」と語った時、松澤さんはその姿に「土佐派の家」が掲げる理念の原点を見た。
「いつのまにか伝統的な家は手間がかかり過ぎ高くなり、庶民のものではなくなってしまった。昔は建前に集落のみんなが助けて建てていた。建築を自分たちの手に取り戻す、彼の挑戦は面白い。」
松澤さんは、単に設計図を描くだけの存在ではなかった。コンセプトの共有から始まり、時に教育的な指導をしながら、瓦・照明など、面白がって協力してくれる土佐派の家の業者さんを紹介し、関係者との調整役まで買って出る。5年もの間、プロジェクトに寄り添い続ける「伴走者」として、川端さんを支え続けている。
途方に暮れた日を救った、地域の温かい繋がり
家づくりは、まず材料の確保から始まった。川端さん夫婦は自ら山に入り木を切り出したが、いざ製材してみると想定していた量の半分にも満たなかった。
「四角い柱を取るのに、どれだけ無駄が出るのか。認識不足でしたね。」
途方に暮れた川端さんを救ったのは、地域の人々との繋がりだった。移住当初からお世話になっていた地元工務店の社長が快く力を貸してくださり、何とか木材を確保。また、その縁から地元の製材所にも声がかかり、協力の輪が広がっていく。素人には難関であった資材発注量の計算方法-木拾い(きびろい)から木材の刻み方に至るまで、プロの技術を惜しみなく教えてもらい、何とか家づくりの入り口までこぎつけた。
「お世話になっていることだらけで、全部自分たちでというわけではないんですよ。」と川端さんは笑う。
資金難が生んだ奇跡、「セルフビルド」から「コミュニティビルド」へ
家づくりを進める中、次はウッドショックによる資材高騰が川端さんを襲う。資金不足という壁に直面し、苦肉の策としてクラウドファンディングに挑戦した。
「リターンは、この家を建てる作業を手伝える権利」。
にわかには信じがたいかもしれないが、このユニークな返礼と無謀とも思えるプロジェクトを「面白い!」と共感してくれる人々がいた。彼らは東京から神戸から、「お金を払ってでもやってみたい」とわざわざやってきてくれた。もちろん面識はない。支援してくれている知人たちも交え、皆で和気あいあいと家づくりの作業を行った。
かつては、集落で家を建てると聞けば皆で手伝った。「そういうのをコミュニティビルドと言うらしいんですけど、結果的にその形ができたなって。」地域にとどまらず、初対面の人も各地から助けに来てくれる。期せずして現代版コミュニティビルドが出来上がった瞬間だった。
その象徴が、リビングの土壁だという。プロの左官屋が塗った壁、川端さん自身が塗った壁、友人が塗った壁、そして、左官屋の6歳の息子が仕上げた壁。それぞれの壁は表情が異なり、一枚一枚が唯一無二の「味」となっている。そこには、この家づくりに関わった人々の確かな息遣いと、温かい思いが刻まれている。
仲間と刻んだ4年間、家の表情に宿る手作りの温もり
着工から4年、家は8割ほど完成した。リビングの中央には、夫婦で切り出し、チェーンソーで製材したという立派な大黒柱が3本、力強く屋根を支える。外壁には、伝統的な「焼き杉」を採用するという。これもまた、仲間たちと火を囲みながら一枚一枚手作業で焼いていく予定だ。素朴ながらも力強いデザインは、この家の成り立ちそのものを物語っているかのようだ。
この家は、新たな物語の始まりの場所
「いろんな方に関わってもらって建てたから、人が集えるような場所にしたい。」この家の楽しい未来を想像し、顔をほころばせる。しかし一方で、林業家として林業の担い手不足という厳しい現実も感じている。気軽に山と触れ合う体験が乏しいことが一つの原因、と前置きしたうえで「ここへ来たら山で遊べるとか、間伐体験ができるとか。林業の入り口みたいになれたらいい。」その一言に力がこもる。
自ら切り出した木で家を建てる。そのシンプルな思いから始まった挑戦は、設計士との出会い、地域の支え、そして全国の仲間との縁によって、唯一無二の物語を紡ぎ出した。この家は、川端さん一家の暮らしの場であると同時に、関わったすべての人々の思いが宿るシンボルとなるだろう。そして未来には、ここから新たな林業の担い手が育っていくのかもしれない。完成は、もう間近だ。
★本山町を含む、土佐れいほく地域の交流会を東京で開催
川端さんもゲストとして参加予定です。川端さんのお話をもっと聞いてみたい方、セルフビルドに興味があるという方、大歓迎!ぜひお気軽にご参加ください。
『土佐れいほく交流会 ~豊かな食と自然体験に出あう1日~』
日時:2025年10月5日(日)
会場:東京都千代田区麹町1丁目4−4 1階 LIFULL Table
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