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都会に疲弊していた中垣さんの人生は、地域おこし協力隊として離島振興に関わる中で変化していきます。製塩事業を立ち上げ、島の魅力を県内外へ広めようと奔走する中垣さんへお話を伺いました!
中垣 慶祐さん
- 出身地:愛知県名古屋市
- 現住所:宿毛市沖の島
- 移住年:2019年3月
- 職業:土佐沖の島塩業 代表
大都市から、人口約100人の離島へ
私が移住したきっかけは、ただ都会で生きることに疲れ、“人が少ない島でひっそりと、それでいて楽しくやり直せたらいいな”という、マイナス思考と僅かにプラスな気持ちが入り混じった感情からでした。
私はこどもの頃から心が弱くて、何かあっても誰にも頼ることができず、いつも部屋で一人で泣いているような人間でした。高校を卒業して自動車メーカーに就職して11年間必死に勤めましたが、振り返ってみると始めから最後までずっとボロボロの状態でした。平日は激務をこなし、束の間の休日も持ち帰った仕事をしたり、会社行事で埋まっていたり。休もうと思っても人口200万を超える名古屋市です。どこへ行くにも道路は渋滞、人だらけ。人間関係に疲弊し、人を見るだけで心が削られていく感覚がありました。
そんな環境もあって休日は家に引きこもり天井を見つめて寝ているか、逆に何時間もかけて名古屋市から離れた山へ一人で登山に行くことが多かったです。ですがある時、不思議と調子が良くなって“退職してゆっくりしてみよう…”と思うことができました。
そこから“自然が豊かな場所に移住して一人でひっそりと暮らそう”と決断するまで、さほど時間はかかりませんでした。
一方で、“もしかしたら、移住先で上手く人生をやり直せるのではないか?”と、僅かに前向きな気持ちもあったと思います。それが地域おこし協力隊という仕事を選んだ理由です。
人と関わりたくないのに、人と関わらないといけない職業を選ぶという矛盾。実は地域おこし協力隊を仕事にしようと決めたのが先でした。その次に“勤務地は、移住先はどこにしよう?”という選び方をしました。山が好きだったので名山と言われるような山がある地域も候補ではありましたが、島の暮らしもいいなと思い「地域おこし協力隊 離島」と検索。当時はいくつか求人があったと思いますが、その中で一番人口が少ない離島を選びました。
それが高知県宿毛(すくも)市沖の島でした。
自問自答の先に見つけた「最強の地域おこし策」
私が行ってきた活動はざっくり言うと、沖の島集落活動センター「妹背家(いもせけ)」を柱とした離島振興業務です。観光・産業・農業振興やお土産・特産品の開発等その業務は多岐にわたります。私の裁量に任せて自由にやっていいよという方針だったため、逆にそれが難しくて悩みました。
“どうしたら島民が集落活動センターを身近なものと感じてくれて、自ら地域の為に活動しようと思ってくれるのか”、“何をして、何がどうなったら沖の島は振興したと言えるのか…”。
日々猛進する中で見つけた最強の地域おこし策、それは「知名度向上」でした。
知られることで観光公害といわれるデメリットも出てくるとは思いますが、知られていないとそもそも何も始まりません。沖の島を知っている人が一人でも増えれば離島振興分野全てに良い効果が生まれると考えたのです。それが後の製塩業起業へと繋がっていきます。
働くって、生きるってこんなに楽しい
『島暮らしはやることなくて暇でしょ?』と言われたりもしたのですが、手を抜かずに全力だったので毎日忙しく大変でした。ただ、島での体験は初めての連続で新鮮な日々でした。製造業から地域おこし協力隊という異業種への転職で、“働くって、生きるってこんなに楽しいんだ”と驚いた記憶があります。
移住前を振り返ってみると、当時は自分自身のことしか考えることができずに仕事を辞めてしまいましたが、退職して6年近く経った今でも、かつての仲間との関係は繋がっています。私自身が弱かっただけで、もう少し強ければよかったな…と思います。ただ、弱かったおかげで沖の島へ移住することができたので後悔はありません。
沖の島に来てからが「一番幸せ」と言えるのでそれも運命、人生かなと思っています。
島が好きだから選択した「起業」の道
地域おこし協力隊を卒業後は、島内の事業所やリモートワークの仕事を選び、島でのんびりとした良い人生を送ることもできたと思います。でも、私は沖の島のことが好きで、“沖の島振興に繋がる仕事がしたい”という想いが強かったので、それが実現できそうな「起業」を選択しました。
製塩業を選んだきっかけは、宿毛市と高知県の職員さんに、『何か起業するなら製塩業が良いんじゃないか?視察に行くぞ!』と半ば強制的に連れて行かれたのが始まりでした(笑)
とは言え、実際に視察に行ってみると塩作りに面白みを感じ、“これは沖の島振興に繋がるのではないか?”と思いました。塩の原材料は海水です。塩だと沖の島の魅力である綺麗な海を活かせるので特産品に適しているし、何にでも使えるという汎用性の高さで販路の幅も広い。塩を製造、販売することで沖の島を知り、興味を抱いた人が遊びに来てくれるかもしれない。既に知っている人も思い出すきっかけになる、と思ったのです。
立ち上げまでに苦労したのは、製塩施設の建築でした。島内には公共工事専門の建設業者しかいなかったのですが、可能な範囲でお願いしながら工事を進めました。私自身も基礎工事から建築までの全工程に携わり、島民にも手伝ってもらい2年以上かけて完成。携わってくださった方々には本当に感謝しています。
また、開業費は自己資金や金融機関からの借入以外に、地域おこし起業支援補助金やクラウドファンディング資金も活用。そして5年目の今年、ようやく製塩所の落成式を開催することができました。当時の視察メンバーを来賓でお招きして、喜びを分かち合えたのが最高でしたね。
「天日塩 塩祐(えんすけ)」を作る使命
沖の島の魅力は人です。外から来た私を優しく受け入れてくれた島の方の温かさに癒され、心が満たされました。私が島に残り続けているのは、沖の島の住民のことが大好きだから。その好きな人が生まれ育った島を知ってほしい、思い出してほしいという理由からでもあります。私に優しくしてくれた島民はもう亡くなってしまった人も多いです。公務員等の赴任者を除けば沖の島の人口はもう100人を切っています。沖の島が寂れていくと亡くなってしまった人たちも忘れ去られてしまいそうな気がして…。それが嫌で、みんなが好きな沖の島を忘れないでほしいと塩を作っています。これからも塩の品質を高めてブランド力を築き、全都道府県に最低1店舗は
「天日塩 塩祐」を取り扱ってくれるお店を作ることが目標です。あとは他業種の事業者さんとのコラボ商品も開発していきたいですね。私が人生をかけた沖の島振興策。
今後も誠心誠意、全力で努めていきます。
やさしい、まろやかな塩味で海の味を再現
美しい海水が産み出す、渾身の天日塩
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