移住者インタビュー
ご夫婦で理想の林業を実現するため、土佐町へ移住された久松さんにお話を伺いました。
久松 涼さん
高知県への移住から土佐町に住むまで
東京都渋谷区で育ち、大学卒業後、メーカーの営業として東京で就職しました。約5年間勤務しましたが、仕事にも慣れ、変化のない毎日にモヤモヤしていました。
そんな時、高校時代の友人が東京から高知県四万十市に移住したことを知り、その友人に会いに行くことに。この時初めて高知県を訪れました。友人は、夏は川のガイド、冬は林業と季節ごとに仕事を組み合わせていて、それが私には「人間らしい暮らし」に思えたことを覚えています。
友人の勧めもあり、2015年、四万十市で地域おこし協力隊として働くことを決意し移住しました。協力隊の活動として、地元の農産物の販路拡大、炭焼き、藁編み、竹編みなどの伝統的な地域資源を後世に残す手伝いをする傍ら、プライベートで林業に携わり、地元の方に協力していただきながら間伐現場を1件仕上げました。
地域おこし協力隊3年目に、同じく協力隊として本山町で林業に従事していた夫と結婚。私は四万十市の協力隊を卒業して本山町に移り住みました。夫の協力隊の活動任期終了後についてどうするかを話し合い、夫婦で林業をすることを決意しました。
翌年、夫の協力隊の任期も終了。時期を同じくして、お隣の土佐町の方から林業を営んでいくのにピッタリな空き家を紹介してもらい、土佐町へ移り住みました。
周辺に恵まれた林業地帯や木材市場がある土佐町は、林業を始めるのに最適な地域だと思っています。一言で「林業」と言っても、地拵えから始まる造林、間伐、皆伐や、事業体で行うのか、自伐型などの個人経営で行うのかなど、種類はたくさんあります。土佐町にはそれぞれの方法で林業をやり続けているベテランがたくさんいることも魅力的です。
四万十市と土佐町の林業
大きな違いとしては、四万十市は檜、土佐町は杉がメインであるという点と、行政によるバックアップは、土佐町の方がより小回りが効いている点であるように感じます。また、現場作業を受ける際には、山林の境界を明確化する国土調査の進み具合が大きなポイントになりますが、土佐町に来て驚いたことは、この国土調査が町内全域で完了していることでした。
たまたまではありますが、四万十市には四万十川、土佐町には早明浦ダムと、両地域とも森と大規模な水資源との切っても切り離せない関係性があります。
土佐町では、早明浦ダムの利水域自治体と水源域自治体とで構成される「もりとみず基金」が創設され、水資源のための森林環境という切り口で、林業施業の在り方について考える気運が高まっていると感じます。後述するように、現在私たちが行っている、自生植物を出荷し有効活用する取組みも、林業の幅広い在り方の一つとして存在感を強めていくのではないかと期待しています。
土佐町での暮らし
日常の買い物については、困ることはないですね。土佐町は町がコンパクトで、スーパー、ドラッグストア、ガソリンスタンドなどが揃っています。子どもが生まれてから気付いたのですが、町内の耳鼻科が週に数回しか診療していないため、急病時や待ち時間が長いことなど、困る場面もないわけでもありませんが。
ただ、今の暮らしには満足しています。家の裏の田んぼで家族で米を育てて、1年間家族3人が食べられるほどの収穫ができています。また土佐町に来て「暮らす」ということを大切にするようになりました。近くの地蔵寺川で気軽に子どもと川遊びをしたり、一日が終わったらぐっすり眠ったりと、当初憧れていた「人間らしい暮らし」ができるようになったと感じます。
四万十市でも土佐町でも、自然派の暮らしをしている移住者が多いのですが、特に土佐町では「いろんな暮らしがあるきねぇ」と柔軟に、移住者を受け入れてくれていると感じています。
今は夫と長男(3歳)との3人家族ですが、秋には二人目の子どもを出産予定です。これからますます楽しみが増えていきます。
集落支援員の活動について
妊娠前までは夫婦で自営で林業を営み、現場作業も精力的に行っていましたが、妊娠をきっかけに集落活動センター地蔵寺で集落支援員として勤務を始めました。私は林業が大好きなので、現場に出ることができない間も、地域の林業の仕組みづくりに貢献したいという思いでここで働いています。
集落活動センター地蔵寺では、キャンプ場の運営をはじめ、山間地の暮らしでは避けられない危険木などの伐採、草刈り、山林施業などを受託して住民の困りごとを解決する事業を行っています。また、薬の原料となる自生植物の出荷や、山林施業で出た原木に付加価値を付ける製材事業で、山林資源の有効活用と経済活動を行い、将来的には雇用を創出し、林業を始めたい移住希望者の受け皿になることを目標に活動しています。
収益化が可能な自生植物に関しては、小規模皆伐後の跡地の適性に応じて、杉や檜に代わる造林作業を行い、人工林以前の本来の森の姿へ促す試みもおこなっています。
今後の構想は、これらの事業がキャンプ場の運営とともに、集落営林事業として集落活動センター地蔵寺の根幹事業となり、そこで得た収益で集落の維持活性化に繋がる交流事業を支えていくというものです。今はこれらの事務局としての体制づくりと日々の事務処理に携わりながら、都会でのサラリーマン時代の経験が思わぬ形で仕事の土台となっていると実感しています。
ご夫婦の将来について
将来的には、また夫婦一緒に山へ入り林業をしたいと考えています。
移住して林業をやりたい、と考える人の中には、自分の山を持ちたいという人が多いようです。しかし、自分たちの世代の後、その山をどう引き継ぐかを考えると、厳しいかもしれません。地域や団体で山を管理することが今の時代には合っているのではないかと私たちは考えています。今後、こうした林業の試みに共感し協力してくれる人と一緒に、地域の団体としてしっかり業務を回していける仕組みづくりができれば、それは町としても財産になると思っています。
移住して山を持ちたい人にとっては、まずは地域の人に信頼されて、山の管理を任せてもらえるようになることがハードルとなります。そこで、そうした林業希望者の受け皿になり、技術習得はもちろん、移住者が地元の方から信頼を得て、地域に根付くことができるような体制を整えたいと考えています。
これから林業を目指す方に一言
土佐町を含め嶺北地域で、自然を上手く活かして軸のぶれない林業に取り組んでいる方と多く出会いました。そしてここには挑戦したいと思える林業がありました。どこかで妥協していたら、本当にやりたかった林業に携わる道は遠のいていたと思います。
夫も「やりたい仕事でなければしない方が良い」という考えの人。業界に限らず、自分の理想と異なることも多いと思いますが、自分の真の思いを見つめ、ぶれないことが大事だと思います。真の思いはぶれずに地域に溶け込むために謙虚に染まることも同じくらい大事とも思います。
取材を終えて
今回の取材を通して、土佐町にはこれから林業を始めようとする人をしっかりと受け入れられる体制があることが分かりました。また、町全体で移住者が溶け込みやすい地域づくりがなされていることも土佐町の魅力の一つだと思いました。
長い年数をかけてやっと一循環する林業を営もうとする久松さんご夫婦は、土佐町の持続可能な林業の体制づくりを目指して日々模索されています。自身が思い描いてきた暮らしを実現できる地域で、新たに見えてくる課題。それはこの町を思うからこそ浮かんでくるものだと思います。ここ土佐町では、自然を生業としながら、それに真剣に向き合い、次の世代へ引き継いでいくための地域づくりが始まっています。
土佐町に関心をお持ちの方は、ぜひ一度、高知県移住コンシェルジュまでお問い合わせください。
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