『移住者同士の師弟関係」
-漁業移住者レポートー

一覧へ戻る
2019.12.23 『移住者同士の師弟関係」-漁業移住者レポートー
『移住者同士の師弟関係」<br>-漁業移住者レポートー

高知県室戸市でキンメダイ漁を行う漁師(師匠)と漁業長期研修生(弟子)、ご縁あって師弟関係となったお二人の移住者に漁師と移住のお話を伺ってきた。 (取材:UIターンコンシェルジュ 大野 耕)

師匠は平成26年に東京から移住してきた佐藤勇さん52歳。
高知については台風が多いというイメージ程度しか持っていなかったという。
佐藤さんは脱サラを目指してコンビニチェーン店の開業説明会などにも参加したことがあるが、遠くはなれた高知で漁師になる道を選んだそのきっかけとなったのは、東京で開催された「全国漁業就業支援フェア」に参加して、高知県の漁業就業支援アドバイザーの募集説明を受けたことだった。そのフェアには全国から多くの団体が参加していた。多くの団体が「雇用型」の漁業従事者を募集していた中、「独立型」の漁師を募集していたのは高知県と他の2県ほどだった。

当時、40代半ばを過ぎていた佐藤さんは年齢的なことを気にしつつも高知県ブースの席に着いたが、担当者はそんなことを気に留める様子もなく、気さくな感じで高知県の漁業や支援制度、研修制度等について説明をした。 職場の釣りサークルに所属し、月に一、二度は東京湾に出かけるくらいの釣り好きだった佐藤さんはこの時に漁師を目指すことに決めた。その後も担当者と連絡を取り合い、その年の5月にはGWを利用して室戸市で一週間の短期漁業研修を受けることになった。そして、その5ヵ月後には、同じ研修先でキンメダイ漁師となるために2年間の長期漁業研修を受けることになる。 佐藤さんの決断や行動力もさることながら、担当者との出会いとご家族の理解、研修生を受け入れる側の漁師さんのタイミングなどの「縁」があったからこそ、スムーズに事を運ぶことができたのだろう。

その佐藤さんの弟子に当たるのが辰己正人さん。
奈良県出身で食品関連の会社に勤めていたが一次産業での独立を考えていた。辰己さんは39歳で退職後にご夫婦で室戸市に移住した。奥さんの奈津江さんは移住後に室戸市の地域おこし協力隊員に採用されている。 辰己さんの漁業へのファーストステップは平成31年1月に高知県室戸市で開催された定置網漁の高知県漁業就業セミナーに参加したことからはじまった。 辰己さんはこのセミナーに参加する前からすでに漁師になることを決めていたようだ。ご夫婦でネット等を利用して漁師なるための情報を集め、その中から高知県の漁業就業セミナーを選択した。漁業就業セミナーは、より身近に漁業を感じてもらうことを目的として、高知県では体験乗船や漁師との座談会などを年に3回ほど実施している。 辰己さんはセミナーで知り合った漁業就業アドバイザーに相談し、2月には養殖漁業、キンメダイ漁と続けて高知で短期研修を受講した。そこで実際に漁を体験し、現在はキンメダイ漁の長期研修生として漁師修行をしている。

実は辰己さんの師匠は一人ではない。短期漁業研修でお世話になった地元のベテラン漁師のFさんや高知県出身だが辰己さんと同じ長期研修生出身のMさん、そして佐藤さんの3人が指導に当たっている。 長期研修は希望すれば誰でも受講できるわけではない。指導漁師、各地区の漁協、市町村や県の担当職員によって審査が行われ、本人のやる気はもちろんだが短期研修時の様子や資金計画なども考慮されている。 最後にお二人にこれから漁師になろうとする方達への一言をお願いした。

★佐藤 勇さん(師匠)
漁師になるには船や漁具の購入などにお金がかかることが多いです。船の購入や生活支援などにはいくつかの支援制度がありますが、それでも事前によく調べてお金のことは計画的に用意しておく事が絶対に必要ですね。 独立したばかりの頃は水揚げもあがらず、蓄えもみるみる減ってきてあせったことがあります。 また、船の上では自分ひとりだけれど、漁師仲間とは漁に関する情報交換などのコミュニケーションは重要です。漁師ならではのルールもあるから、なんでも相談できる先輩漁師がいると心強いですよ。 地域の人との交流も大切で、家探しには地域の人にとてもお世話になりました。 しかし、無理に付き合うのではなくて自分なりの距離感をもつことが肝心だと思います。 漁師という仕事は、自然相手でもあるけれど、自分の創意工夫や努力が報われます。

★辰己正人さん(弟子)
まだ、研修を始めて2ヶ月ほどで、一人前の漁師ではないので人に伝えることは思い浮かびません。夕方の6時過ぎには布団に入り夜中に出漁して、帰ってきても明日の準備などで一日が漁のことばかりで過ぎていきます。覚えなくてはならないこともたくさんあるし、失敗もあるけれどそれ以上に充実感のある暮らしができていると感じています。 不動産屋が少なくて家探しには苦労しました。田舎ならではのルールにも驚いたりしましたが、室戸での生活では地域の人や移住相談員さんからの情報は役に立ちました。高知に来てから、いろんな人との出会いに恵まれました。その結果、今の暮らしがあると思います。

★取材後記
転職や移住が成功するにはいくつかの要素がある。それは人それぞれであって何が一番重要かということを決めることは難しいが、お二人のお話を聞いた印象では人との「出会い」や「縁」も大切な要素の一つだと感じた。それらは偶然に成り立つものではなく積極的な行動の結果ではないだろうか。 「ノックしない扉は開かない」という言葉を思い出した取材となった。

★漁業関係情報サイト
高知県 水産振興部 漁業振興課
一般社団法人 高知県漁業就業支援センター
全国漁業就業者確保育成センター・漁師.JP

おすすめ記事

オススメコンテンツ

イベント情報や支援情報など、
最新の情報をメールでお知らせします!

Go Top