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安田町で、ハウスナス農家として独り立ちした岡本晴佳さん。24歳の挑戦の日々を取材しました。
岡本 晴佳(おかもと はるか)さん
- 出身地:香川県
- 現住所:安田町
- 移住年:2018年
- 職業:農家
profile
1997年生まれ。香川県坂出市出身。高知大学農学部卒。在学中に訪れた安田町が気に入り、卒業とともに移住。町の新規就農研修制度を利用して、ハウスナスの栽培について2年間学ぶ。現在は独立ナス農家1年目。
見習いから独立農家へ。勝負の1年目。
現在24歳。今年ナス農家として一本立ちして、半年が経ったところです。
大学を卒業してから去年までの2年間は、安田町の新規就農者支援制度を活用して、研修を受けていました。お給料をもらいながら、ベテランナス農家の師匠からみっちりナスの作り方を教えてもらう、いわば見習いです。
そこで習ったことは、ハウス栽培のノウハウだけでなくて、独立農家としての仕事の姿勢とか同業者同士で助け合って支え合う関係の築き方とか、農家の生き方そのものでした。とても濃い内容を、じっくり大事に教えてもらえた2年間でした。
独立農家って、平たく言うと自営業です。年齢も経験も関係なく、一人の経営者としての責任や義務があります。自分一人で代わりがいないので、槍が降ろうが高熱があろうが自分で管理をやりきらないといけません。体調管理も仕事のうち。生半可な気持ちでやってはいけない、というのが師匠からの教えです。
あたたかな人と本に囲まれる日々。
同じように農家として独立している人は、年長のベテランの方から比較的若い方まで、みんな横並びの関係で、上下関係がありません。そこが会社員とは違うかなと思います。全部自分の責任と裁量で仕事をするのは、厳しい部分もあるけど、やりがいもあります。
個性豊かな同業者の方に囲まれて、自分のスタイルで仕事をできている楽しさがあります。一番若い世代なので、娘のように可愛がってもらえていると思います。幸せですよね。
同世代の人たちは…どうかな。私の周りには今、年齢の近い同業者がほとんどいません。会社勤めをしている同年代の人たちとは違う環境かもしれませんが、孤独だとか寂しいとは思いません。
ぽっかりと時間が空いたら、本を読むことが多いです。松浦弥太郎のエッセイや村上春樹の初期の小説が好きです。本には書き手の人生の断片が書かれていて、本の世界に没入していくのも面白い。静かで、豊かな時間が過ごせます。
やりたいことを始められた幸せ。
仕事場は、安田町唐浜のハウスです。1反3畝(およそ1280平米)、1人分の収入を確保するのにちょうどの面積と言われています。1反につき18トンの生産量が目標で、水やりの量や肥料のやり方とか、まだ手探りですが日々悩みながら進めています。
収穫は、この仕事のハイライト。自分が手をかけて世話したぶん、収穫量が目に見えて違うし、サボったりズルをしたらそれもまた、2週間後にはっきり結果として出ます。そこが面白いです。それに、ナスってプリッとした形もかわいいし、花もかわいい。私はナスのハウスに入るとなぜかホッとします。真夏はすごく暑くて大変なんですけどね。
ハウス園芸は初期投資が大きいと言われていますが、後継者がいなかったご年配の農家さんからハウスを借りることができたのが幸運でした。苗代や肥料代はかかったものの、なんとか1年目を乗り切る目算が立ちました。それに地元の人の厚意で、ハウスのそばの一軒家も安く借りられ、本当に幸運な巡りあわせでした。
つくづく、私は「人の縁」に恵まれているなと思います。思えば農業の道を選んだのも、やっぱり「人の縁」があったからです。
キラキラしている人達に憧れて。
大学時代、なんとなく「食」に関わる仕事がしたくて、農業の現場を見て回るようになりました。県内の農家の方にお会いして、アルバイトや住み込みのインターンをしました。この経験は大きかったです。
印象に残っているのは、中土佐町の「中里自然農園」さんと高知市春野町の「春野かわさき農園」さん。どちらの方々も働く姿がキラキラしていて、それぞれの農業に真剣に、それでいてニコニコ楽しく打ち込んでいるのが伝わりました。毎日熱い想いを抱いて、どうしてこんなに楽しそうに、一生懸命働いていられるんだろうって不思議でした。農業という仕事には何か秘密の魅力があるはずだと思うようになりました。
何も知らなかった頃、私は農業という仕事を、なんだか低く見ていた部分があったと思います。体力がいる大変な仕事だし、つらいだろうなと勝手に思っていた。でも実際は違っていました。
キラキラした目で楽しそうに前進していく諸先輩方の仕事ぶりを見ていて、心惹かれました。「農業」を自分の仕事にしようと思ったきっかけはそれです。
やるなら、自分が大好きなナス。ハウス園芸にしっかり打ち込みたい。その思いで始めました。
故郷の家族。
父も母も、香川県で教員をしています。
私は親の影響もあって幼いころから真面目な子どもで、コツコツやるのが得意なタイプでした。だから農業には向いていると思います。農業って、真面目で地道な努力がモノをいう仕事だから。
最初に私が農業をやりたいと言ったとき、家族には大反対されました。農業がどんな仕事かわからないし、「ハウス園芸」も「安田町」も知らない両親にとって、私の選択は謎だったんだと思います。「どうして?」「どうしても農業をしたいなら、(故郷の)香川県でやればいい」と言われました。
でも大学在学中に知った安田町の人との縁をどうしても切りたくなくて、「この人たちと働きたい」「安田町で農業をやりたい」と言い続けて、やっと納得してくれました。研修を経て、独り立ちした今は、二人とも応援してくれています。
借りているハウスの契約期間は5年。その間、目標の収量を安定して取れるようになりたいと思います。
今はまだ夢中で、わからないことも多いですが、師匠や先輩たちの背中を追う気持ちで精一杯。周囲の助けももらいながら、最初の一年を無事に過ごせるよう頑張っています。