移住者インタビュー
土佐清水市に移住し、大井田病院(宿毛市)で県内初のコミュニティナースとして活動する中野さんにお話を伺いました。
中野 知美さん
看護師として高知で地域医療に関わりたい
高知に移住するきっかけになったのは、東日本大震災と、土佐清水市にUターンした友人でした。
元々住んでいた大阪では急性期の病院で看護師として働いていました。勤務先はいわゆる「かかりつけの病院」ではなく、事故などでの急患が運び込まれるような病院なので、とにかく患者さんを治療することに専念するという日々でした。どうにか命は取り留めても、回復後どのような生活を送っているのか、以前の生活に戻ることができているかは全然わかりません。もっと患者さんの身近な存在として寄り添える医療をやりたいという思いはずっと抱えていました。
そんなとき、東日本大震災の避難所の仮設診療所でボランティアをしたことで、地域医療の大切さを実感しました。治療の経過を看ることはもちろんですが、患者さんのこれまでの生活背景を知って、治療後に患者さんが家に帰ってうまく暮らしていけるようにすることが大切なのです。これからは「地域医療」をやってみたいな、と思いました。東日本大震災で価値観が変わった人は多いと思いますが、自分もその中の一人でした。
地域医療は今まで勤めていた病院とは逆で、「取りにいく医療」。患者さんのことをこちらからもっと知りにいく感じです。 そんな地域医療に携われるフィールドを探していた時に、土佐清水市にUターンした友人のところに遊びに行ったら、なぜかもう病院の関係者との面談がセッティングされてました(笑)その場で、地域医療をやってみたい気持ちを話したら「あなたの言ってること、全部できますよ」と言われて…。あとはご縁なので流れるまま、土佐清水市へ移住しました。
県内初のコミュニティナース
移住後は病院内で在宅医療に関わる担当に就きました。介護職の方や自宅療養されている方の生活を支える方たちと関わることができて、とても勉強になりました。この頃は主にそういった専門職の方と関わる仕事でした。次はもう少し住民さんと直に触れ合いたいという気持ちから、訪問看護の現場に移りました。
2019年からは宿毛市にある大井田病院のコミュニティナースとして活動しています。コミュニティナースとは、「制度や枠組みにとらわれずに、町に出て自由で多様なケアを実践するあり方」です。"毎日の嬉しい"や"心と身体の健康と安心"を住民と一緒につくるために、専門職の皆さんとの連携が必要ですし、もちろん患者さんご本人やそのご家族とも関わります。計算したわけではありませんが、結果的に当初の目的通りになっていて、今までの経験の集大成のように感じています。
病院内全員がコミュニティナース!?
2022年4月に「病院内全員コミュニティナース」というプロジェクトを立ち上げました。私一人だけが動くのではなく、病院内の全員が動くようにすると、私一人ではできないことができるようになってきました。現在は当院のコミュニティナースが外に出ていくフィールドとして、「いきいきサロン」「水曜サロン」「移動保健室」の3つを活用しています。
「いきいきサロン」は、宿毛市が運営している健康器具が置いてある施設で、基本的には健康な方が来る場所です。ですが、ケアが必要な方がリハビリに来てもらえるような機会を作りたかったので、こちらから宿毛市に提案し、月に2回、理学療法士に体力チェックしてもらったり、健康相談ができる日を設けました。私も同行して、生活のことを聞いたり、健康や介護の相談を受け付けたりしています。半年間続けていく中で利用者は拡大し、次年度から事業化されるようになりました。
「水曜サロン」はNPO法人「ゆめ・スマイル」が開いている、少人数のコミュニティです。地域の集いの場はあっても、大勢の場所に行くのが苦手、耳が遠いので人との交流は不安があるなど、ちょっと行き辛い方が気軽に集まれる場所として月に1回、開催しています。面白いことに、水曜サロンは、元々「いきいきサロン」のスタッフだった方と、コミュニティナースとして私が初期から関わっている女性、それから私の3人で企画して動いています。特に女性の方が「今度はあの人も誘おうと思う」と積極的に動いてくださり、チャレンジしながら一緒に創っています。
「移動保健室」は医療機器を搭載したオンライン診療車です。2022年12月に大井田病院に導入されました。病院まで距離のある中山間地域へのアプローチとして、気軽に医療者に相談できる機会になっています。たとえば、家にネット環境がなくとも、車内に入ればモニター越しに医師や理学療法士、薬剤師と会話をすることが可能です。まずは「移動保健室」の存在を認知してもらうのが大事だと思い、診療車を停めたところでは外にテーブルとイスを出してのぼりを立てています。簡単な体力チェックをしたり、熱中症予防など健康に関するお便りをお渡しすることで、「移動保健室は定期的に訪れる、身近で気軽に相談できる存在」として周知できればと思います。
ほかにもフィールドは開拓中で、私以外の人もどんどん病院の外に出ていく形を目指しています。大井田病院だけではなく、宿毛市中の病院がそれぞれの強みを活かして、市役所やほかの専門職と絡むのが当たり前、という世界を創りたいです。官学民の区別なく、高校生が入っても面白いでしょうし、それぞれの「こうなったらいいな」という考えを、一人ではなくみんなで作り上げていく仕組みができればいいですね。
移住したい人に伝えたいこと「思い切って来てみて!」
私が高知に最初に来た時、病院関係の方との面談で「田舎だと大活躍できるよ」と言われました。人が少ないから…というのもありますが、高知には本当に何かやりたいと思う人が十分に活躍できるフィールドがあるからだと思います。
私の場合は、違う世界で見つけた新しい発見が、人生にいろどりを与えてくました。移住したいと思ったら、住み続けるか続けないかは別として、まずは現地に来てみてはどうでしょうか。
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